6 差分方程式のJacobi行列とその固有値
この固定点
の位相的性質(安定性)は,前節で求めた
式(8)の初期値に対するJacobi行列,
![\begin{displaymath}
\frac{\partial T(\mbox{\boldmath$ x $}_0)}{\partial \mbox{\b...
...l \varphi_2}{\partial y_0} (2\pi, x_0, y_0)
\end{array}\right]
\end{displaymath}](img61.png) |
(6.23) |
の固有値で特徴づけられる.
この説明の前準備をしよう.式(8)は離散系になっている.
離散系の一般的な方程式は,状態
に関して,
 |
(6.24) |
という差分方程式で与えられる.
の固定点
が見つかったとき,
 |
(6.25) |
となることがわかる.
ところで,連続時間の自律系の場合を復習すると[4],
 |
(6.26) |
の平衡点を
とする.
平衡点近傍
において
Taylor 展開を実行すると,
 |
(6.27) |
この式と式(26)との差を取ると,
に関する変分方程式
 |
(6.28) |
が得られる.この
の固有値
の値によって平衡点の安定性を判別できたことを思いだそう
.
つまり,
についての一般解は次式で表される.
 |
(6.29) |
ここで
は定数,
は固有ベクトルを示している.
この式で例えば,固有値の全てが
負の実部を持っていると,その平衡点が安定なのは一目瞭然であろう
.
したがって連続時間自律系において,ある平衡点での
Jocobi行列の固有値は,その平衡点の安定性の指数となっていた.
この固有値と同様な,離散系における指標は何であろうか.
元に戻って,離散系システムの固定点は,連続系の平衡点に対応すると考えられる.
すなわち,式(25)は連続系(3)の,
 |
(6.30) |
に対応している.ともに定常状態に落ち着いていると思えばよい.
式(25)について一次の変分方程式をたてよう.
いま,固定点近傍について
として
 |
(6.31) |
この式に対してTaylor展開を施すと,
 |
(6.32) |
となる.2次以降を無視し,式(25)との差を取ると,
線形差分方程式,
 |
(6.33) |
が得られる.ここで
は
の Jocobi行列となる.
さて,
 |
(6.34) |
が成り立つゼロでない解
が存在するとき,
を差分方程式(33)の固有値という.
また,
を,固有値
に対応する固有ベクトルという.
固有値は特性方程式,
![\begin{displaymath}
\det \bigl[J - \mu I \bigr] = 0
\end{displaymath}](img87.png) |
(6.35) |
で求められ,固有ベクトルは式(34)を直接計算すると
求められる.
固有ベクトルを出発点として,方程式(33)で次々と生成
されてゆくベクトル列は,
 |
(6.36) |
となる.この差分方程式の一般解は,
 |
(6.37) |
で表すことができる.ここで
は定数,
は
固有値
に対応した固有ベクトルである.
式(37)はある大きさの固有ベクトルに,
あるスカラ値
を
回かけていくことになる.
そこで,ベクトル
の長さが発散しないためには
 |
(6.38) |
を要することがわかる.
さて,もとのPoincaré写像によって次々と生成されてゆくベクトル列は,
式(36)に似た形の式になっていると気がつくだろう:
 |
(6.39) |
したがって,式(6)の特性方程式
![\begin{displaymath}
\det \left[ \frac{\partial T(\mbox{\boldmath$ x $}_0)}
{\partial \mbox{\boldmath$ x $}_0} - \mu I \right] = 0
\end{displaymath}](img96.png) |
(6.40) |
の固有値,
によって,固定点
の
安定性が議論できる.
2次元力学系における固定点の分類は,ここでは簡単に
次表にまとめる.
Table 1:
固定点の分類
名称 |
条件 |
記号 |
完全安定固定点 |
 |
S |
完全不安定固定点 |
 |
U |
正不安定固定点 |
 |
D |
逆不安定固定点 |
 |
I |
一つの固定点には2つの方向の固有ベクトルが対応する.例えば,正不安定
固定点なら流入,流出の2方向のベクトルになっている.これを鞍型点(saddle point)
という.また,逆不安定固定点は,写像の度に反対方向に点列が反転して
いく(マイナスの値を繰り返しかけるから)鞍型点になっている.
さて,以上の予備知識をもとに,固定点を任意のパラメータにおいて求めること
ができるようになった.
User &
2017-09-07