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: 2 原理 : LATEXによるきれいなスライドの作り方 : LATEXによるきれいなスライドの作り方

1 まえがき

(以下は2000年ぐらいから書き始めており, 現在の状況と一部一致しない点がありますが,ご了承ください.) LATEXを普段使っている研究者や学生は多いと思う. 広く LATEXが受け入れられている背景には,やはり 印刷品質のよさが挙げられる.またプログラミンング 言語にくわしい人にとって,プログラムを書くように論文を仕上げられることは, 自然であるし生産的でもある.また, データベースなどから所望のデータを抽出し, LATEXで加工する過程は,すべてスクリプト言語で記述できるから, 差し込み印刷もお手のものだ. LATEXのこのようなソフトウェア開発との親和性も見逃せない.

研究発表のためにプレゼンテーション(以下プレゼン)を行う機会も増えている. 昨今の大学教育課程でも,プレゼン技術を積極的に指導しているようである.

プレゼンといえばかつては OHP(Overhead Projector)を用い, 講演者は transparent sheet(以下トラペン)を作成することが一般的であった. トラペンを用いる効用をここに披露するつもりはないが, 急速にトラペン + OHP によるプレゼンは廃れている(現在進行形) ということは間違いない.

OHP に取って代わった機材は液晶プロジェクタであり, 最近は高輝度高解像度のものがどんどん安価になっていくので, 一般普及にはさほど時間がかからないと思われる. 手描きやワープロ,SliTEXを使ったトラペン作りは, 一気にプレゼン用データ(以下スライドと呼ぶ)の製作へと変化した. 最近までのOHP時代でも,トラペンに直接ペン書きする人も稀になり, 多くの場合,コンピュータのデータや版下をトラペンに印刷して用いていた. 液晶プロジェクタの登場で,コンピュータ画面の投影が実現されたことによって, 版下作り+トラペン作りという二度手間だった過程が, 版下作り(スライド作り)だけになったことは, 人間工学的にも大いに歓迎すべきであろう.

そこで液晶プロジェクタで投影するためのスライド作成方法がクローズアップされる. OHP でできていた投影技術を液晶でも実現するだけであれば, プロジェクタの投影範囲全体を有効に使った,単に 図を表示するプログラムを用いてパラパラ漫画を作ればよい理屈になる.

ところがこの簡単な理屈がどうもスンナリとは通用しない. Windows による PowerPoint というプレゼンテーションツールの登場が問題なのである.

PowerPoint は,OS バンドルであることが多く, 普及率としては他のプレゼンツールに比較して (使う使わないがあるにしろ)抜群であろう. しかし,ちょっと使っていると以下のことに気が付く: ある程度手軽にスライドが作成できるのだが, プログラマらが考えている生産性からはほど遠いインタフェースしかないのである.

技術畑・理学畑の人がプレゼンをするからには, 予稿(しかもLATEXのソースで)ができあがっている場合がほとんどであろう. しかし,PowerPoint では,その予稿テキストはほとんど使い回しができない. つまり,PowerPoint には copy & paster でテキストがコピーできるが, LATEX用のコマンドをいちいち削除しなければ ならないだろう(考えただけでもヤになるので,やってみたことないけど). 結局スライドはイチから書き直し同然となる. どう考えても二度手間なのである.

また,単なるパラパラ漫画機能以外の機能が充実しすぎるのも問題である. 意味不明の大げさなスライドイン効果(と呼ぶらしい)や,聞いてる方が 赤面しそうな効果音など,さまざまな無用なツールの使用によって, 本来プレゼンで伝えねばならない重要な情報量が, あきらかに薄められてしまっていることに気が付かない発表者もいるようだ.

かく言う筆者も 1997年ごろPowerPoint がもの珍しい時期に, 他の人の PowerPoint による発表を見てそれなりに衝撃を受け, 早速使ってみたことがある.一枚数十円するトラペンは全く消費しないし, 何度も作り直しが効くから,これは合理的だ!と思ったのは事実だ. しかし,PowerPoint では, 私の研究分野も関係してすぐにスライド作成でつまずくことになった. 数式入力が多大な負荷になのである.数式作成エディタらしき ものを使わないといけないようだ.それですぐに使わなくなってしまった 1

また,多くの人が PowerPoint でのプレゼン中に Windowsごと「フリーズ」してしまった 経験を持つだろう.私もこの 4 〜 5 年で 5 回はそういうケースに直面した. このようなレベルでのプレゼンの失敗はまったく閉口の一言につきる. 発表者が緊張のあまり凍り付くのではなく, アホなプレゼンツールが凍り付くのである. 発表の印象も,聴講者にはその失敗しか植え付けられない.

私も数十人の聴講者を前に原因不明のフリーズに遭い, 復帰するまでの一分近く,アドリブで喋るハメになったこともある. それ以外にも,「PowerPointは二度と使うか!」と思った冷や汗ものの 事態があったのだが,それは省略することにしよう.

座長が失敗プレゼン発表者に遭遇してしまったとき, コンピュータのリブートから回復までどれぐらいかかるか, このまま次の発表者に発表を回した方がいいのか, などの判断は瞬時には非常に難しい. 利用者に無駄なこのような無駄なエネルギーを使わせるプレゼンツールは, やはり無用といわざるを得ないだろう.

本報告では上記の背景をもとに,終始一貫して LATEXにまつわる ツールだけを用いてきれいなプレゼンを作る方法を述べる.

ここまで読んでくれた方,ありがとうございます.



Tetsushi "Wahaha" Ueta 平成18年9月30日