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ここでは PDF論文をあつめて冊子体にする効率よい方法についてのべる.
昨今,国際会議,学術講演会などの集会において,
プログラム集やアブストラクト集は紙媒体であっても,
講演論文集が紙媒体のみで配布されることはなくなってきた.
論文集と同じ内容を含むCD-ROMが付属するか,
もしくは最初からCD-ROMしか配布されないことも多い.
エコロジーの観点からも,費用面からも,
また容易な検索機構が得られることからも,
これら電子媒体による論文集配布は歓迎されることである.
学術会議での講演論文は,学術的水準の維持の点から多くの場合,
査読プロセスにより審査されることが多い.
紙媒体および郵便で,投稿,査読,結果通知,
再投稿が行われていたのはそれほど昔のことではないが,
インターネットが,これらのプロセスの期間大幅短縮,
コスト大幅削減に多大に貢献していることは誰もが認める所だろう.
さて,会議録,プログラム集,アブストラクト集の作成には,
一般には専門業者に任せることが多いであろう.
丸投げできる方が責任も減るような気がして,楽に違いない.
しかし会議の出版担当委員からすると,
業者への入稿期限を見越した早い段階からプログラムの確定を行うのは難しい.
また,業者からのドラフト原稿をチェックしたり,
差し替えなどをいちいち業者に連絡するのは面倒である.
変更もすぐには反映できない,
勿論刷り上がりイメージを見ながら試行錯誤でデータを変える作業もできない.
それより第一,この丸投げ,実にお金がかかる.
CDのプレスにはさほどお金はかからないが,
中身の作成は他人に頼めばとかく費用が発生する.
またこれが大変高額なのだ.
もともと講演論文集なんて,
講演者が提供する情報を寄せ集めただけの冊子である.
本質的にプログラム(掲載順番やセッション)だけ主催者が決めたら,
あとは講演者情報や論文PDFへのリンクを作成するだけの話である.
業績として記録したい向きには,やはりロゴやページ数は
論文本体に刷り込んでやりたいものだが…
そう,そんなことこそ人手をかけずにコンピュータにやらせよう.
日本の出版業界の現状から考えると,本稿で述べる手続きによって
論文集を制作すると,一会議につきラフに言っても 1,000,000円は浮く
と言っても言い過ぎではないと思われる.
業者に渡すお金があればもっと集会そのものを盛り上げる何かにつぎ込もう.
以下は,あまりお金がない集会の気の毒な出版担当者への福音の書である.
自分が操作できる UNIX コンピュータがあるとき,
参加者の論文投稿から査読,カメラレディ収集,および
CD-ROMコンテンツ作成まで,信頼性を保ちつつ,できるだけ費用をかけずに
楽にこなす手法について述べる.
実際,以下に述べるように,会議録のコンテンツ,すなわち,プログラム
生成,論文への通し番号およびロゴ付け,索引の生成は
一瞬で出来上がる.
CD-ROMへの複写やパッケージングだけ業者に頼むという方法も考えられるが,
CD-R複写機が手許にある場合はさらにその費用さえも節減できるであろう.
以下の仕組みのキーワードは「programmable」「reproductive」「reusable」
であり「汎用」であり「自動化可能」である.ちょちょいと応用すれば
make 一発で全てが一瞬に出来上がるように設計することが本質である.
Commence Conference Manager(CCM)は PHPで書かれた会議マネージャである.
論文の投稿,査読(割り当て,結果収集),著者への連絡・コメント送信,
再投稿などのプロセスが実行できる.CCMは以下の特徴がある:
- ウェブ上でほとんど全ての操作が可能.
- 締め切りに合わせて,システムのフェーズを切り替えられる.
例えば査読フェーズの期間内は新たな投稿や既存ファイルの更新は禁止される
- 投稿されたデータは BLOB 形式としてデータベースに格納される.
実体としてファイルをデータベースの外部にもち,
そのファイルへのパスなどの情報を持つ形式のシステムを見かけるが,
それとは異なる.
ただし,MySQLは実体を
/var/db/
に持つので,
このパーティションの空き容量が少ないシステムでは要注意.
- 一つのアカウントで複数の投稿が可能
- 締め切りまでは原稿は何回でも出し直せる.
- NOLTA 1996. 広報を担当.初めて出版を手伝う.
このときは版下は全て紙媒体だった.
ウェブサイトを作るが,投稿は郵便だった.
ページ番号振りや目次作りは印刷業者におまかせとする.
- ISCAS 1996 は PostScrip/PDF 投稿となっていたが,
ftpを使ったもので,putしたあとのファイルがどうなってるか確認できなかった.
(unreadable だった) これ以降,ISCAS はCD-ROM proceedings が主流となる.
- NOLTA 1999 では NOLTAでは初めて CD-ROMが配布された.
が,どうも投稿は紙とPDFの併用だったらしく,
CD-ROMにはPDF投稿分しか掲載されていない.
ページ数も刷り込まれていない.index.htmlをウェブブラウザで開き,
各PDFはウェブブラウザのプラグインであるビュワーに任されている.
- NOLTA 2000 では相当数のPDFが収録されているが,まだ100%収録ではない模様.
ほぼ前年を踏襲する形式.
- IECON2000ではPDF投稿が義務づけられていた.その時点での
PS to PDF変換には多くの問題があることを認識した.
- ITC-CSCC 2001. 査読関連サイトを作る.
洗練された査読の枠組みが必要だなと感じる.まだ紙媒体による会議録であった.
- NOLTA2001 の出版担当,東北大佐藤茂雄先生よりノウハウを聞く.
PDFによる論文収録率は100%となった.
紙媒体だった投稿はスキャナで読み取り,PDF化した模様.(手作業)
PDFをいちいち Acrobat で開き,ページ番号とロゴを入れて行くという
途方もない作業はさすがに見送られた.
なお紙媒体は,ロゴ刷り込み,
ページ番号入れ作業を含んだものを業者に発注しているようである.
- ISCAS2001, 2002 などは洗練された投稿システムとなっていたが,
これらは全て業者に多額の費用を支払っていたようである.
(多分ePAPERSを一貫して IEEE は使ってる
ようである).
- NOLTA/ISITA 2002. 出版を担当する.投稿は電子化されたが,
仕組みは静岡大の和田忠浩先生
が作成された.
CD-ROM制作には三美印刷があたる.PDFに関する操作は
Acrobat 内部のマクロを動かす Javascript と,
人海戦術と聞いている(現在はどうかは不明).
600枚のCD-ROMの制作(紙媒体は需要に合わせ少数部発行)に
総額百数十万円かかった.
この頃 PDFlibによる自動化を考え始める.
- ECCTD 2003 の
Start
という投稿システムに
感銘をうける.Start は Perl で書かれたフリーのマネージャであり,ECCTD
出版担当だった Z. Galias にノウハウを聞く.
- NCSP 2004. 出版を担当する.Start を用いようと考えていたが,
投稿開始時期直前に Start には再投稿の機構がないことに気づいた.
Galias は自分で再投稿機構を書いたそうである.
悩んだ末に使用を断念.ウェブを探しまわり,
CyberChair
というシステムを発見.NCSP2004の投稿システムとして
正式に採用する.CyberChair は Python で書かれたフリーのマネージャである
(SQLは使用されていない).
Springer の特集本の投稿システムとしても稼働した実績があるようである.
が,このシステムはダメだった…
原因の一つは内部にデータベースを用いてないことによる
データ一貫性の崩れがあるためであった.さらに
致命的だったのは,ウエタが CyberChair の本体コードの言語である
Python を読めなかったことである.
投稿データは実ファイルとして置かれるが,投稿者の ID生成,パスワード生成,
ファイル名のハッシング,どれを取っても不明な実装であり,突発的な
不具合が生じたとき,ハックのしようがなかった.また,不十分な試験運転のまま,
本格運用を始めてしまったので,
不具合があっても一旦止めてみて実験する,ということができなかった.
これほどドキドキさせられるシステムの運用は初めてだった.
PDFlibによる会議録自体の自動生成には成功する.(Special thanks to
辻繁樹さん)
- NCSP2005 では Commance Conference Manager に行き当たる.
幸せになる.Technical program chair が出してくれるテキストファイルに従って
プログラム,ページ番号振り,ロゴ刷り入れが自動化された.
なお,編集費用としては200枚のCD-ROM制作に5万円,
200部のアブストラクト集(紙媒体)に5万円であった.
徳島大学知能情報工学科内部で大学院学生のレジュメ集作成にも使用した.
- NCSP2006, NCSP 2007, NDES 2007, NCSP 2008
も Commance Conference Manager で運用.
- NOLTA 2007 では START II を使用することに決定.ホスティングも頼んで
$870 です.査読プロセスの制御は大変だったが,データとしては,
論文番号のファイル名によるPDFをダウンロードでき,また,
書誌データも CSV ファイルで得られるため,ほぼ同様の枠組みで対応できた.
- NOLTA 2008 は Epapers
を使う.
- 投稿受け付け開始から締め切り前日までの投稿は
10% 以下であると見積もってよい.
- CCM は一旦ユーザ登録をしてから,あらためて投稿時に
ログインしなければならないが,そのユーザ登録すら,前日までほとんどされない.
- 多くの投稿予定者はハナから締め切りが延長されることを期待している.
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Tetsushi "Wahaha" Ueta
2008-08-16