DSP実験ボードとして, Texas Instrument社の 16 bit 固定小数点 プロセッサを搭載した TMS320C6211DSK,ソフトウェア開発環境と して,Code Composer Studio を用いた. この環境では,プログラム開発はほとんど全てC 言語を用いて 行うことができる.
常微分方程式の解をアナログ信号出力として得る方法として, デジタルコンピュータの計算結果をD/A変換器に送る方法がある. しかし,デジタルコンピュータでは一般に累積加算演算に 時間がかかり,リアルタイム処理は難しい.そこで本研究では, 数値積分アルゴリズムをDSPに実装し,DSP単独による 信号発生を実現する. アナログ出力はDSPモジュールに付属している TLC320AD535 (標本化周波数 8KHz) を用いる.
実験は,2階自律系の van der Pol 方程式を用いる.
式(1)は正規化方程式であり, 時刻のスケーリングで基本周波数を任意に決定できる. 具体的には,正規系方程式は,Runge-Kutta法のステップを 1/64 として解を計算し, ステップおきに D/A 変換器に 状態値を送り,D/A変換器後段のアナログフィルタによって 滑らかな信号を得る.なお,標本化周期内でステップの 計算は完了しなければならない. 図1 に波形を示す.式(1)の 非線形項の係数 が比較的大きい値であるため, 緩張振動的な発振が出力されている. とおいたため,基本周波数は約 600 Hz に なっている.音響として聴くこともできる. 図2 に解の周波数スペクトルを示す.
数値解法がアルゴリズムとして与えられるため,方程式を 変更するのみで,各数理モデルの状態を,電圧という物理量をもつ 信号として出力できる.高階の方程式では,カオス信号をも発生できる. また,外部入力を受け取り,インタラクティブに信号発生メカニズムを 変更できる柔軟性があり,応用が期待できる. 今後は,高階微分方程式の計算,A-D変換器の高速化にともなう 高周波発振出力の獲得, カオスを生じる電気回路におけるカオス制御について実験を行う.