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さて,本題

単語「技術力」とは,「知能情報工学科の 4年間(就職試験時には3年間か)の教育課程で徐々に培われた(精神に蒸着した, 知恵として熟成された)その学生の工学的・人間的な能力,潜力」 と定義しましょう. 大学の4年間で,本学科の教育課程の進行と技術力の習得が自然に融合して 一人前の技術者が育つことを理想としています.しかし, 最近の学生さんはそもそも大学進学の動機づけがなされてない (情報工学がやりたくて進学してきたわけではない人がいる)こともあるためか, われわれの思惑と違って,底の浅い,打算的な 創造力に欠ける人材にしか成り得てないようです. 私の6年間の教員生活では, おおよそ次のような考えが,大半のみなさんにとって支配的であると 観察されました. このような価値観を持つ学生でも,卒業さえすれば, 最終的に会社員になれたのはバブル崩壊までのことです. バブル期にこのような学生を採用してしまった 企業は,不況の現在は大変不幸な目に遭っていることでしょう. でも今は違います.単に卒業しただけでは就職はできません. 企業は,おチャラケ学生は無視して, より高い「技術力」を持った人のみ採用するでしょう. これは大学の「学校推薦」が価値を失い,形骸化しつつある中で, むしろ企業の慎重な採用方針は,その企業の将来への防衛策ともなって いるのでしょう.(それが自然な気がする)

その学生が技術力を持っているか,深く身に付けているか, それともツケ焼き刃(たとえば「就職面接のイロハ」程度の本を読んだだけとか) なのかは,就職試験の面接において 5分も話を聞けば すぐさま試験官は判断できます. 面接する側もかつては大学にいた先輩ですし, 現役一流エンジニアでもあるわけですから, 面接内容から個人の技術力を評価するのは非常に簡単であることは 想像できるでしょう.口達者な人は,面接で自分が有利なように話を 誘導できると思い込んでる人が多いようですが,話のスジを話し手に 委ねてしまうほど,面接者はヒマではありません.聞きたいことを ズバズバ聞きます.もちろんその企業の利益に即した研究を,大学の 卒業研究・修士論文でやってることは稀と考えるべきなのは 面接者は知ってます.ですから,在学中の研究テーマについてどう考え,どう 調べて,どう取り組んで,どう理解してるかを聞いてきます.

「おとなしい」とか,「元気がないから」とかいった理由で 会社側から不採用通知をもらう人が多いのですが,本気でそういう理由で 落しているのではありません.大学での成績,筆記試験,面接を通して, やはり単に「会社に貢献できるような技術力を持ってない」と判断 されたとみてよいでしょう. 専門知識の豊富さを単に問われるような資格試験のようなものでは, 単に記憶の問題と言えますから,別に工学系の資格ではなくても (たとえば行政書士とか)取得は可能でしょうが, 短期的な対策で身に付くものではない技術力について,その有無を 試される就職試験はカンニングペーパーの 丸暗記,詰め込みだけでは乗り切ることなどできない分けです. 逆に言えば,4年間みっちりと鍛えられ「技術力」を身に付けた人は どのような質問に対しても自信を持って答えられるでしょう.

「技術力」は,たとえば,情報処理2種や1種を取得していることと 等価でしょうか? それらは「技術力」を計る一つのモノサシではありますが, それが全てではありません.

さらに私論を言わせてもらえば,資格認定試験はまさに記憶との 戦いであり,片手間にできるぐらいの心構えでなければ,学生時代に やるべきものではないと思います.企業にとっては,学生が そういう知識や資格を獲得していると「あぁ頭は悪くはないな」と 言う程度の判断はつく,参考になる程度です. しかし, 大企業ほど「即戦力になるような学生は採用するな」(実話) というポリシーを持っていますし, 資格を持った人間を多く採用して即金儲けのできる企業などないのです. 大学も個々の企業の理念や利に叶った人間など育てられません. 所詮は資格など上辺(うわべ)のことなのです

「技術力」の本質が何であるかを述べるのは少し後回しにして, ここらで発想を転換してみましょう.まず考えてください. 「自分は一体何がしたいのか?」 深く深〜く考えるところから始めたいところですが, 工学部知能情報工学科に入学しておきながら 今さら「板前になりたかったのでは?」なんて考え始めるのは いささかおマヌケなので, ここは腹をくくって,情報工学のエキスパート(専門家), プロを目指す上で「自分は何をするべきか?」を問うことにしましょう. っと,こう書くともう半数近くの人が「何それー」と反感を感じたり 「へろへろ〜」と萎えているかも知れません. 中には「専門バカ」という言葉を知ってて,技術屋の専門家なんて 目指すのは人間的にもよろしくないと思ってる人もいるかも知れません.

いきなりプロを目指すと言ってもさっぱりどうしていいかは分からないとは 思います.そこで「分からないから考えるのを止める」「分からないから,誰か 教えてくれるまで待つ」という体制が主流を占めています. それで,プロへの第一歩はまず「どうすればいいか,必死で考える」こと だと言っておきましょう.問題があって,解決への糸口をさぐる, 考える.という経験をいかに多く積んだかが,あなたの将来を決めるでしょう.

ところで,高校までの勉強はいわゆる記憶型のものが 多かったと思います. また,全ての問題には「正解」が用意されていて,その「正解」に 辿り着くまでの課程を記憶する,とも言えます. より多くの問題に触れて,各解法のパターンを覚えると高得点が 得られるというわけですね.もちろん,このような記憶の訓練が あってこそ見えて来る部分も沢山あるわけなので,記憶型の勉強が 悪いということはないと思います.

でも記憶型の勉強方法しか身に付けてない人は,大学に入っても 一般的に記憶に頼る勉強方法になるので,次のような弱点が 改められません.

例えば常微分方程式をラプラス変換を用いて解く技術は知っていても なぜラプラス変換を用いるのか分からない人が多くいるわけです. 大学に来てまでも,いまだ記憶型の勉強を実践すると,往々にして 「よくわからんけどそうなる」という結果だけを覚えることになってしまいます. テスト直前にノートを丸暗記し,テスト本番はその脳内に断片的に 残っている記憶を解答用紙にコピーするということになってますよね? でも,大学で「技術力」を養うにはそんな勉強は無意味です. 大学こそは,「どうしてそうなるか」の理屈をゆっくり時間かけて考える訓練 をする場所とも言えます.「技術力」は,専門教育の課程のながれと, それに応じた思考・理解の繰り返しで徐々に身に付くものなのです.



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